「『合唱』 – 混声合唱のための」を公開しました

先ほど、ひとつの動画をYouTube上で公開しました。谷川俊太郎さんの詩による合唱曲「合唱 – 混声合唱のための」です。「合唱」というタイトルの詩に作曲しました。ライブ録音ではなく、ピアニスト含めそれぞれの自宅で録音していただいた音源をこちらでミックスした、いわゆるテレコーラス(多重録音合唱/リモート合唱)によるものです。これまでにも、関係している合唱団のアウトプットとしていくつかの非公開テレコーラス作品を手がけたことはありましたが、外部に発表するものはこれが初です。

※いわゆる「多重録音などによる、Webで発表されることを前提にした合唱」について「テレコーラス」「リモート合唱」「テレワーク合唱」など、様々な呼称がありますが、ここでは「テレコーラス」に統一します。

誰にも例外はない

新型コロナウイルスの影響は少なからず私のところにもやってきました。上半期の初演・再演の予定はすべて中止か延期、コンクール審査や講習会、合唱祭講評などの外出仕事も軒並み中止。最後に都外で仕事をしたのが2月末でした(当然ながら、それ以降は都内含めて外での仕事はありません)。それでも楽譜だけは出版していただけるのでありがたいことですが、合唱音楽にとって必要な「集まって歌う」ことへのリスクがある以上はまだ先が見通せる状況ではありません。このような状況で楽譜を書くのはなかなかつらいものです。

誰のため、なのか

そんな中、SNSや動画サイトには多くのテレコーラス作品がアップロードされていきました。ある動画は感謝と声援を、またある動画は自分たちの何かをアウトプットしたいという想いを…と、そこにいる人たちの合唱活動がどこへ向かっているかを色濃く知ることができました。もともと音楽の道へ向かうきっかけがDTMだったので、もちろんこういった動向にも興味はありましたし、MTRを買って多重録音に挑戦したこともありました(TASCAMのPOCKETSTUDIO 5、記録媒体は128MBのコンパクトフラッシュ!)。現在でもたまに舞い込んでくる打ち込み系の仕事は楽しいです。「自分も何かをやらなければ」という気持ちには(まだ)なっていなかったのですが「まずは自分のため、であれば何かできるかもしれない」と思ったのも揺るぎないことであり、そこからどのようにこの想いを着地させるか、の模索が始まったのです。

自分のために全部やる

「どうやったか」は次の記事に譲るとして、今回は人集めから最終形の出力まで、ほぼ全ての作業を自分の手で行いました。大きなものを背負うには何もかもが足りなく、ただ自分のために少し先のことを作り上げてみたいという感情に向かい合った、それだけの理由です。結果、ピアニスト含めて36名の皆さんのご協力を仰ぐことができました。自分が所属している合唱団のメンバーが中心です。これが「合唱団のオンライン練習とその成果物を示す」活動であるならば、ZOOMなどのWeb会議システムでリハーサルを繰り返して録音物にフィードバックを送り…などの手順を踏んだほうがよいものになる(あるいはそういうコンセンサスが形成されやすい)と思うのですが、あくまでも個人的なプロジェクトなので、ひとっ飛びで最終形まで行ったほうが面白いだろう、という仮定のもとに、参加してくださったみなさんとのやりとりは全体メールが数回、録音物は1回だけ送っていただくという方法をとりました。このあたりは企画型合唱団の運営ノウハウを応用しています。

合唱は「さいこう」されるべきか

新型コロナウイルスが引き起こした「禍」のさなか、SNSだけでも合唱音楽に対する数多くの意見がありました。国内で感染者集団(クラスター)が発生した、という最大のインパクトを発端に、合唱音楽そのものを忌避する発言も相次ぎました。この稿を書いている2020年6月中旬、全日本合唱連盟が感染症拡大予防のガイドライン制定に乗り出し、また感染者数の少ない地域や、人の動きが限定的なごく狭いコミュニティの合唱団は少しずつ練習を再開する動きが出てきたようですが、それでも以前のような形を取り戻すには至っていません。現在の状況を「合唱音楽は死に絶えてしまったのか」と問い、そこからの「再興」を目指す流れがあってもよいのです。しかし、私は合唱をやるひとたちが力をなくしたとは思っていません。なにより、合唱音楽は何かを「囲む」ことから始まるものです。そこさえ担保できれば形が少し違っていても、続けられることがあるのではないでしょうか。手元にあるカードを使って合唱音楽としてのアウトプットを模索し、合唱を「再考」すること。私はその立場からもう少し手数を尽くしていきたいのです。そうして、今までやってきた合唱音楽(あるいは、それにほとんど似たもの)が戻ってきたとき、どちらの「さいこう」を経てきたものも、きっと以前にはない強さや練度をまとっているでしょう。そして、前者の考えでやってきた人とすれ違ったときに、お互いに微笑み交わせればそれで充分なのです。

ひとまずの結び

もちろん、私はこの作品がいつか練習会場で、ひいてはホールの舞台の上で響く日が来ることを待っています。現実問題として、それが当面の間できないので…と話を繋いでいくと、ではこれは「何かの代わり」なのか、ということになりそうなので、そこはひとまず首を横に振るとします。一人ひとりの持つリソースを「いまできること」の前で積極的に組み替えていくとこうなる、という結果としてのテレコーラスでありたい、そう思いながら制作を進めていきました。ただ、さまざまな楽しみ方の可能性を残さないものではありません。今後、マイナスワン合唱音源の制作なども行う予定です。多重録音を軸とした試みは今後も続けていきます。

次の記事では「こうやって作った」という制作メモを中心にお送りします。

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