カワイ出版から拙作「五つのソネット」が刊行されました。同社から発売されている混声合唱組曲・曲集としては9作目です。カワイ出版の混声三部合唱作品は既刊の作品も含めて新たな表紙デザインとなり、作品がつぎつぎとリリースされています。いわゆる「クラス合唱曲」ではない混声三部合唱の拙作が出版されるのは初めてです。谷川俊太郎さんの「62のソネット」から抜粋した5篇、「木蔭」「ひろがり」「知られぬ者」「私が歌うと」「今日」をテキストとする全5曲、約15分10秒。カワイ出版の商品ページでは演奏動画の試聴もできます。
この作品は2016年、東京医科歯科大学混声合唱団によって委嘱・初演されました。初演指揮者の三好草平さんからは「大人でも楽しめる混声三部合唱の作品」をリクエストいただき、2015年の後半にかけて作曲しています。混声三部合唱という編成は、もともとは教育用に開発された作品を中心に発展してきたものなので、いまでも新しく生み出される作品はクラス合唱曲がかなりの割合を占めます(私もNコン課題曲含め、何曲か作曲・編曲してきました)。時代の変化とともに合唱を楽しむ人たちの層も多様化が進み、特に昨今の新型コロナウイルスの流行は、合唱団の規模や編成のバランスなどに大きな影響を与えました。いまこの編成が改めて見直される中でカワイ出版からお声がけをいただき、長らく未出版であったこの曲集が刊行される運びとなったわけです。
混声三部合唱の書き方は、単に(混声四部合唱ーテノールもしくはバス)とするだけでは成立しにくいところがあります。男声が1パートしかないので、和声上の役割としてテノールとバスを行ったり来たりする(なおかつ、それを線的にもうまく成立させる)必要があり、また音色においても、中高生の合唱の場合はテノール寄り、大人の合唱団の場合はバス〜バリトン寄りになるなど、混声四部合唱のように「内声が手を組む」局面がほとんどないので、密集和音を効果的に使いにくい部分があるのです。この作品でも、開離和音のハーモニーをメインに使い、随所にポリフォニックな展開を採用するなど、この「ある意味身近すぎる」編成に新たな光を当てるべく力を注ぎました。混声三部の男声はパート名をどうするか?もいろいろな考え方があるようですが、私の場合はこのあたりの事情を踏まえ、シンプルに”Male”としています。
出版が8年越しとなり、当時の書き方の拙い部分も楽譜から見えてきたので、今回は全面的に改訂を加えたうえで、より演奏効果を高められるよう、男声パートにオプション扱い(小音符)でdiv.を加えました。このdiv.は「男声パートがテノールの動きをしているとき」に限って「同じリズムでバス声部の音を追加する」という使い方に限定し、女声:男声の比率が2:1程度の場合でも、div.することでかえってハーモニーを損ねる…といったことがないように工夫しています。もちろん、div.せずに3声で歌っていただくことでにじみ出る魅力もあると思います!
いままで審査や講評に伺った現場でも、男子が1〜2人しかいないので彼らは女声合唱のアルトパートを歌う(ときには実音オクターブ下で)、といった状況に遭遇したことは少なくありません。拙作のような混声三部合唱のレパートリーが、そういった(主に中高生の)団体の選択肢として存在できるならば嬉しいです。実際、未出版だったときに再演を行っていただいたのはすべて中高生、コンクールの自由曲としてでした。
今年のNコン高等学校の部課題曲は、混声四部/混声三部/女声・男声三部の3編成になったことでも話題となっています。実際に音源を聴いてみたところ、それぞれの編成ごとの演奏効果にほとんど差がなく、その絶妙な音使いに驚くばかりでした。混声三部合唱だけではなく、最近は「女声でも男声でも、重ねて混声でも歌える二部合唱」など、既存の編成よりシンプルなスタイルの作品も徐々に見られるようになりました。そのシンプルさが「何かの代わり」に着地せず、その編成の良さを引き出した作品がもっと生まれてほしい!そしてチャンスがあればもっと書いていきたい!と思うことしきりです。