「合唱」ができるまで 〜 テレコーラス制作編

こちらは「テレコーラス制作編」として、テレコーラスの動画作品を完成させるまでの流れを綴っていきます。あくまで自分の環境下での覚え書きなので、詳しい制作ガイドにはなっていませんがご容赦ください。

※いわゆる「多重録音などによる、Webで発表されることを前提にした合唱」について「テレコーラス」「リモート合唱」「テレワーク合唱」など、様々な呼称がありますが、ここでは「テレコーラス」に統一します。

用意するもの

参考までにわが家の環境を記しておきます。ここに書いていない機材(ヘッドホン、モニタースピーカー、制作用のピアノetc.)などを含めると金額を計算するのが恐ろしくなりますが、そういうものだと割り切って課金していく姿勢も大事です。特別な機材を揃えずに、すべて無料ないしはそれに近いソフトで行うことも無理ではありませんが、制作物のクオリティや手数の面で早々と頭打ちになりやすいため、おすすめはしません。また、ソフトウェアの習得という壁があるので「誰でも」「簡単に」という方法は(少なくともこの記事には)ありません。ソフトの使い方は覚えましょう。

(1)パソコン…iMac Retina 5K(2017)
店頭売りの一番安いモデルですが、メモリを24GBに増設+USB3.0接続の外付けSSD(1TB)で運用しているので速度的にはストレスありません。macOSはCataina 15.5です。
(2)DAWソフト…Logic Pro X
Apple謹製、かつ¥24,000と比較的安く買えます。セールなどでギフトカードを安く買うことができればもう少しだけ粘れます。
(3)ノイズ除去ソフト…RX7 Standard
後述するPhoenixVerbとのセットで、最廉価版のElementsが¥1,000というセールの時に購入し、その後アップグレードしました。セール中だったのでこちらも¥10,000程度。
(4)リバーブプラグイン…PhoenixVerb
原音を大事にした高品質なリバーブです。プリセットが充実しています。セール中だったので実質¥500。
(5)マスタリングソフト…Ozone 9 Elements
AI搭載らしい。キャンペーンで無料でした。
(6)オーディオインターフェース…YAMAHA AG06
操作盤がコンパクトにまとまっていて使いやすいです。ループバックなど、配信する人向けの機能も。
(7)ダイナミックマイク…JTS PDM-57
どこかで見たような型番と見た目、ほぼ「あれ」のジェネリックです。サウンドハウスでは税込み¥2,398と破格の値段で買えます。多重録音の素材収録であれば十分だと思います。
(8)画像加工ソフト…Adobe Photoshop 2020
Creative Cloudユーザーなので実質無料(※)です。 ※諸説あります
(9)動画編集ソフト…Adobe Premiere Pro 2020
上記に同じです。

楽譜の用意

市販の楽譜を用意するか、自分で書いたり書いてもらったりしましょう。今回はオリジナル作品なので、自分で曲を書きました。楽譜はFinale 26というソフトで制作しています。Finaleは出版譜の制作にも使われていてユーザーも多く、調べるか本をあたるかするとだいたいのことが解決できます。

ピアニストとのやりとり

ピアニストに連絡し、ピアノパートの録音をしてもらいます。今回は拙作個展の練習ピアノでもお世話になった薄木葵さんにお願いしました。彼女は自身のWebサイトやSNS上でも #ばんそうすき の名称で伴奏音源制作サービスを行っています。素晴らしい音源が届いたので一発OK。みなさんもぜひ弾いてもらってください。

もしもピアニストがスマートフォンや安いボーカル用のダイナミックマイクしか持っていない…など、録音環境に不安がある場合は「電子ピアノでライン録り」ができないかお願いしてみましょう。音の情報量はこちらのほうが多く、使いやすいです。ピアニストの場合はパソコンベースで機材を揃えるよりも、USBオーディオインターフェース機能を搭載したPCMレコーダーを購入したほうが「わかりやすくいい音」を得られます。かつてはZOOM(Web会議じゃないほう)の独擅場でしたが、TASCAMも既存機種にI/Fを組み込んだ製品を発売しています。

音源の制作

ピアノの音源をLogic Pro Xに読み込ませ、テンポ情報を記録していきます。「スマートテンポ」という機能があり、オーディオファイルを自動解析してテンポ設定できるので便利です。できあがったら、Finaleから出力した合唱パートのMIDIファイルを読み込ませて、音取り用の音源も一気に作ってしまいましょう。クリックも入れられます。今回はこの機能にずいぶん助けられました。

上記のような編集が難しい場合は、ピアニストにクリック(メトロノーム)を聴きながら録音してもらい、後からクリック音を合成する(あるいはクリック入りでもう1回弾いてもらう)などの手段でもいけるかもしれません。これだと複数トラックを扱えるソフトであればDAWでなくても問題ありません。

人を集める

今回は、作曲時の想いと「これだけ読めば全てわかる」形に手順を記した企画書を作成し(A4・2枚分)、関係する合唱団のMLなどを使って展開。エントリーフォームの自動返信メールで楽譜や音源の共有先を案内し、手間をできるだけ減らすようにしました。たとえば、これがSNSを使って多くの人にご協力をいただいて…となると難しかったかもしれません。「SNSでゼロから人集め」は「ボーカル以外全部募集、当方ボーカル」くらいのことを覚悟する必要があります。現状、動画サイトなどで見ることができるテレコーラス作品の多くが合唱団や共通項のあるグループ単位であることからもわかるように、お願いできるようであれば既存のコミュニティを経由するのが間違いないと思います。

録音時のお願い

各個人の録音環境はそもそもスマホだったりICレコーダーだったり、あるいは音楽用のPCMレコーダーだったりと様々なので、ノイズ除去などの編集を前提にあまり細かく注意を書きすぎないようにしました(いままで手がけた合唱団内部向けのテレコーラス作品もほぼ同様です)。上記の企画書に記したお願いをそのまま転載します。

– 録音機材はスマートフォンや IC レコーダーなど、何でもかまいません
– 動画である必要はありません(動画を送っていただいても音声のみ使用します)
– 音質を設定できる場合はなるべく高音質のものにしてください
– 録音にカラピアノの音が入らないようにしてください
– 録音機材に近づきすぎるとノイズが多くなるので注意してください
– 録音中に機材との距離が変わらないようにしてください
– 通し録りが望ましいですが、難しい場合は [C]の前後(※「みんなで歌っています」のところ)で分割してもかまいません
– エフェクトやノイズ除去処理はこちらで行うので、設定せずにそのまま提出してください(軽いホワイトノイズ程度なら消せます)

…これでも抜けが結構あるのですが(環境に起因するノイズの話など)、集まった音源は(多少のノイズなどはありましたが)どれもよい演奏でした。

録音を送ってもらう

今回はなるべく敷居を低くしたかったので、録音物のフォーマットも指定しませんでした。音源の送付も、メールに直接添付か外部ストレージサービスのアドレスを教えてね、という指定のみです。結果としては外部ストレージのほうが少し多かったようです。半数以上がWAV、あとは圧縮音源のMP3かAAC(m4a) でした。

音源の下処理

集まった録音は40トラックぶん。これをRX7 Standardにかけて下処理を行っていきます。ほぼ必ず行うのは
・ノーマライズ(音量のピークを合わせる)
・全体的なノイズ除去
の2つです。後者は”Voice De-noise”という音声・ボーカルに特化した強力な機能。後ろで流れている「サー」というホワイトノイズなどを、録音前後の歌声が入っていない部分から分析して消してくれます。いい仕事です。その他に”Spectral Repair”などの機能を使うと「カタッ」「パサッ」といった軽いノイズから、ページをめくるときのペーパーノイズまで、得手不得手はありますがおおむねミックスに問題ないレベルまで低減させることができます。部屋の残響が気になるものもいくつかあったので、これも”De-reverb”という機能で消していきます。一通り編集が終わったら、歌い出しと歌い終わりを切り取って完了です。このときにフォーマットも44.1kHz/16bitのWAVに統一してしまいます。なお、自分と妻の歌唱はオーディオインターフェースとマイクを使い、Logic上で直接録音しました。ノイズ除去ソフトがない場合は、波形編集ソフトのイコライザーなどでも似たような処理が行えますが、削る音域が歌声の帯域に重なってしまうと音が痩せてしまいます。さらっと書いていますが、この下処理だけで8時間くらいかかりました。

録音をDAW上で合成、細かい編集

下処理を行った音源たちをLogicへ読み込ませていきます。「合唱」では、最初に歌詞があるのはソプラノのみ、次にテノールとバス→アルトとテノール→ソプラノとアルト、と2声のペアが移り変わっていく…という展開をとるのですが、最初に歌詞が登場するフレーズで歌い出しを調整していくとおおむねうまくいきました。仮で合わせた音源を再生し、各音源で起こってしまったミス(音やリズムの明らかな間違い)があれば適宜確認、ピッチやタイミングを修正します。やりすぎるとテクノ感が出るので注意しましょう。ブレスノイズやリップノイズ、歯擦音などが気になるようであればまたRX7に読み込ませて修正したり、ロングトーンの切れ目が合わないところをうまく揃えたり…と、ここを詰めたり詰めなかったり、あるいはそういった判断をするのに結構な時間がかかります。ここでやっていることは、ほぼ合唱指導におけるフィードバックと(入口と出口だけは)変わらないようにも見えます。今回は大部分の作業を自分ひとりで完結させているので、あえてブラックボックス度を高めに、中間報告なども行わずに制作を進めていきました。合唱団内部での成果物制作を目的としたテレコーラス作品では、演奏に必要な全パートが揃った段階で途中経過を共有するといい刺激になるでしょう。

エフェクトなど

リバーブはパートごとにセンドリターン(1つのエフェクトなどを複数トラックで共有すること)を作成、それぞれにリバーブをかけました。並び順も(いちおう)設定し、それを想定したパン(定位)を振り、また前列と後列でリバーブのかけ方を少しずつ変える(後列は前列にかけたリバーブのプリディレイを長めにとり、その分跳ね返りの強いプレート系のリバーブを軽めに追加でかける)など、いろいろ工夫してみました。ライブレコーディングを想定したプリセットがあったので、そのまま使っています。

必要に応じてイコライザーもかけます。音量を下げるだけでは解決しないパートバランス上の問題が発生した場合や、録音が圧縮音源だった場合には大いに役立ちます。

最後にマスタリングソフトにかけて完成です。Ozone 9はいい感じのミックスをAIが自動的に算出してくれるというすごいソフトですが、細かいパラメータは調整が必要です。このあたりはもう少し使いこなせるようになりたいですね。

動画をつくる

YouTubeにアップロードするための動画を作ります。今回は録音と一緒に「あなたにとって『合唱』とは何ですか?」をテーマに1人1枚、写真をお願いしました。動画はスライドショーに歌詞の字幕を流し、最後に数枚のエンドロールというシンプルなものです。こういうタイプのものを制作する場合は、画像切り替え時のエフェクトを2つ以上使わない、画面分割は4分割までにするなど、ルールを決めておいたほうがごちゃごちゃせずにすみます。テレコーラスでよく見られる「各個人で歌っている動画がタイル状に表示される」というスタイルはあえて採用しませんでした。このあたりは必ずそうしなければならない、という類のものでもないので、個人の好みで構わないです。どうしてもタイル状に並びたい、並ばせたいんだ…!というかたは、いったん完パケの音源を制作してから、それに合わせて口パクで歌っている動画を撮ってもらったほうが全体のクオリティは上がるかもしれません。

写真を使う場合は事前にある程度の取り決めをしておくのも大切です。今回は「スマホで撮る場合は必ず横画面」としています。16:9の画角に収まるものはそのまま採用、収まらない場合は画面分割のパーツとして使用したり、テレビでよく見かける「4:3のソースを16:9の画面で流すときのぼかし」を横に入れたりしました。画像の上下をカンバスの上下に合わせたレイヤーと、画像の左右をカンバスの左右に合わせたレイヤー(上下がはみ出る)を作り、左右を合わせたレイヤーを下にしてぼかしを入れるだけです。

字幕のフォント選択も悩みどころだと思います。パソコンのみならず、スマホやタブレットなどさまざまな環境で再生されることを考慮し、最近の動画ではすべてUDフォント(UD=ユニバーサルデザイン。文字の形がわかりやすく、文章が読みやすくなる)を使っています。

アップロード

動画ができあがったらYouTubeにアップロードします。プレミア公開をすると祝祭的な雰囲気が出ますが、今回は曲名も内緒にしておきたかったので(プレミア公開の場合はタイトルを隠すことができません)YouTubeとTwitterでそれぞれ予約投稿をしました。(なお、このblog記事も予約投稿です)このあたりは戦略的にやっていきましょう。公開する時間帯も大事です。

おわりに

「合唱」のエンドロール3枚目のように、ここまで全部の作業をひとりで行うのはかなり骨が折れます。逆に言うと、そこに記載されている作業工程は分離可能だと考えています。テレコーラス、ひとりで作ってもチームで作ってもきっと楽しいです。一定の規模で機材やソフトウェアに投資が必要なので万人におすすめできるとは言いませんが、こういったアウトプットに波長が合うかたにはきっと沼が見えているはずです。

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